課題

背景

Solanaは、非常に高い処理速度を誇るブロックチェーンプラットフォームであり、そのスケーラビリティと低コストなトランザクション処理は、マスアダプションに向けた大きな一歩となっています。Solanaは、数々の革新的なプラットフォームやアプリケーションを生み出し、ブロックチェーン技術の新たな可能性を広げています。

Solana: https://solana.com/

そのような背景の中で、Proof of Stake(PoS)コンセンサスを採用するSolanaにおいて、バリデータの拡大と分散化はネットワークの安全性と健全性を支える重要な要素です。バリデータノードの数が多く、かつステーキングが広く分散されているほど、ネットワークは外部からの攻撃に対して強固になり、真の分散型ネットワークとしての信頼性が高まります。

Proof of Stakeの仕組みでは、トランザクション(取引)の正当性を確認するために、ネットワーク全体の66%以上の同意が必要です。この同意を得るために、バリデータがその役割を果たしています。しかし、もし悪意を持ったグループが66%以上のステーク(ステーキングされたトークンの総量)を持つバリデータを仲間にすることができれば、そのグループはブロックチェーンを操作し、不正な取引を正当なものとして認めさせることができてしまいます。

ここで重要なのが、バリデータのステーキングがどのように分散されているかです。例えば、少数のバリデータが全体の大部分のステークを保有している場合、悪意あるグループがその少数のバリデータを仲間にすれば、比較的容易にネットワークを乗っ取ることが可能になります。一方、ステークが多くのバリデータに分散されている場合、ネットワークを乗っ取るにははるかに多くのバリデータを支配する必要があり、その分攻撃が困難になります。

具体例として、もしあるバリデータが全体の10%のステーキングを持っているとしたら、悪意あるグループはわずか7つのバリデータを支配するだけでネットワークを乗っ取ることができてしまいます。しかし、もし各バリデータが0.1%のステーキングしか持っていなければ、同じ66%を確保するためには660個のバリデータを支配しなければなりません。このように、バリデータの拡大とステーキングの分散化は、ネットワークのセキュリティを強化し、ブロックチェーンの持続可能性を確保するために不可欠です。

現在の状況

2023年3月に公開された”Solana Foundation Validator Health Report: March 2023”というレポートによると、同年3月23日におけるSolana メインネットバリデータの数は2,421台でした。

Solana Foundation Validator Health Report: March 2023: https://solana.com/news/validator-health-report-march-2023

そして同年10月に公開された”Validator Health Report: October 2023”によると、同年9月6日時点でSolana メインネットバリデータの数は1,961台に減少していることが報告されています。他のブロックチェーンのバリデータの数は増加傾向にあります。

Validator Health Report: October 2023: https://solana.com/news/validator-health-report-october-2023

2024年8月時点では、さらに減少し、Solanaのバリデータ数は1,430台となっています。

ここで注目すべき点は、「Superminority」という概念です。Superminorityとは、ネットワーク全体のステーキング総量の上位33%を占めるバリデータの集合を指します。この33%のバリデータを支配することで、外部からの攻撃者はネットワークを停止させることが可能になります。現在、SolanaチェーンのSuperminorityは18台のバリデータで構成されています。

ネットワークのセキュリティを向上させるには、バリデータの数を増やし、ステーキングが一部のバリデータに集中しないようにすることが重要です。より多くのバリデータがネットワークに参加し、ステーキングが広く分散されることで、Superminorityの数が増え、攻撃者がネットワークを停止させるのがより困難になります。これが、Solanaネットワークの健全性を保つために必要なステップです。

Solana Beach - Validators: https://solanabeach.io/validators

バリデータの数が少なくなる中でもSolana トークンの価格は上昇しており、トークン価格下落によるインセンティブ減少がバリデータ減少の理由ではありません。

CoinMarketCap - Solana: https://coinmarketcap.com/currencies/solana/

バリデータ減少の理由

高度な技術力の要求

Solanaネットワークでバリデータを運営するためには、非常に高い技術力が求められます。バリデータはネットワークの安定性とセキュリティを維持するために、常に最新のソフトウェアとプロトコルに対応し続ける必要があります。しかし、Solanaでは、Ethereumのような「Out of the Box」ソリューションが存在せず、各バリデータが独自に高度なサーバースペックを確保し、設定を行わなければなりません。

これが新規参加者にとって大きなハードルとなり、参入障壁を高めています。また、Solanaはソフトウェアアップデートの速度及び品質を優先していること、現在はメインネットβ版であることから公式ドキュメントの更新が遅れることも多く、最新の情報にアクセスしづらい点も、技術的な課題を増加させています。

Solana Validator Requirements: https://docs.solanalabs.com/operations/requirements

高い保守コスト

バリデータ運営には、24時間365日のサーバーメンテナンスと頻繁なアップデート作業が必要です。ネットワークの正常な運用を維持するためには、日頃の監視・アラート管理はもちろん、ソフトウェアの更新がリリースされるたびに迅速に対応しなければなりません。このような保守コストは、特に中小バリデータにとって大きな負担となっています。

高価なサーバー代と損益分岐のステーキング量

バリデータ運営には、性能の高いサーバーが必要であり、そのためのコストは決して安くはありません。さらに、Solana FoundationによるTDS(Testnet Delegation Program)などのステーキング補助があるものの、これは一時的な支援であり、長期的な運用には十分ではありません。現在のバリデータが損益分岐点を達成するためには、約50,000 SOLのステーキングが必要とされ、これを達成できない場合、赤字運用となります。

つまり、上記の技術的・経済的な負担に加えて、バリデータは自らのステーキングを増やすために、効果的なマーケティング活動も行わなければなりません。バリデータは、ネットワーク内で自分たちの存在をアピールし、より多くのステークを獲得するために、積極的に自身のサービスを宣伝する必要があります。このマーケティング活動が不十分であれば、十分なステーキングを集めることができず、結果として運営を続けることが困難になります。

このように、高い技術力、保守コスト、サーバー代の負担、さらにマーケティングの必要性が重なり、多くの中小バリデータが活動を停止し、結果としてネットワークの分散化が進まない状況が続いています。この傾向が続くと、Solanaネットワークのセキュリティと分散化が脅かされるリスクが高まります。